《ピアノのための6つの小品》 Op.118-2 イ長調 「間奏曲」
慈愛に満ちた愛情あふれる実に美しいピアノ小品
『ピアノのための6つの小品』Op.118は、1893年に完成したピアノ小品集で、5つある小品集の中でも人気が高く、また特に第2番「間奏曲」は単独でも演奏されることの多い作品です。
構成
- 間奏曲 イ短調
アレグロ・ノン・アッサイ、マ・モルト・アパッショナート【Allegro non assai, ma molto appassionato】
- 間奏曲 イ長調
アンダンテ・テネラメンテ【Andante teneramente】
- バラード ト短調
アレグロ・エネルジコ【Allegro energico】
- 間奏曲 ヘ短調
アレグレット・ウン・ポコ・アジタート【Allegretto un poco agitato】
- ロマンス ヘ長調
アンダンテ【Andante】
- 間奏曲 変ホ短調
アンダンテ、ラルゴ・エ・メスト【Andante, largo e mesto】
ピアノ作品の作曲家としてのブラームスは、18歳の時に作曲した最初のピアノ曲「スケルツォOp.4」に始まり、初期から中期にかけては雄大なソナタや変奏曲を書き、精力的な作品を多く作曲しました。
5つの小品集は後期に入り書かれた作品で、その晩年はスケールの大きい作品とは訣別し、ブラームス自身「自分の苦悩の子守歌」と呼んだ小品集がいくつか生み出されました。
その殆どは1892年に作曲されたもので、「幻想曲集」Op.116、「三つのインテルメッツォ」Op.117、「ピアノ小品集」Op.118、「ピアノ小品集」Op.119があります。
小品集で見せるブラームスの表情は人生も晩年を迎えた穏やかなもので、ブラームスは小品の中でも落ち着いた曲調の作品に好んで「間奏曲」の題名を付けました。
晩年の小品集を予告するものとしては、既に1878年に作曲された「八つのピアノ小品集Op.76」がありますが、そこで見られる「カプリッチョ」や「インテルメッツォ」といった小品が、晩年の一連の小品集でも重要な構成要素を成しているのです。
『ピアノのための6つの小品』Op.118は、1892年の夏に上部オーストリアの保養地イシュルで完成していますが、1880年にイシュルで夏を過ごしたブラームスはこの避暑地が気に入って、1889年からはここで毎夏を過ごすようになりました。
オーストリア湖水地方バート・イシュル
1893年12月に「四つのピアノ小品集」Op.119と共に、ジムロックからブラームスの存命中に出版され、クララ・シューマンに献呈されています。なお、初演は1894年にロンドンで行われました。
ブラームスからこの作品の印刷譜を受け取ったフィリップ・シュピッタのブラームス宛ての返信(1893年12月22日付)が、この作品の内容を的確に表現しています。
「あなたのピアノ曲集はいつもわたしの頭を離れません。これはあなたが今までピアノのためにお書きになったものとは全く違っていて、私の知っているあなたの器楽曲の中で、最も内容豊富で最も意味深いものです。
これは静寂と孤独の中で長い時間をかけて呼吸するのに適したもので、弾いた後ばかりでなく弾く前の黙想にも適したものである。
あなたがこのようなものを”インテルメッツォ”という言葉で暗示しようとしたことを思うとき、私はあなたを正しく理解したと信じます。
”間奏曲”というものは前提と結論を持っているもので、この場合それぞれの演奏者と聞き手が自身でそれを作り出すべきです」
第2番は「インテルメッツォ」イ長調のアンダンテ・テネラメンテですが、テネラメンテは「優しく」や「愛情をもって」という意味で、文字通りの慈愛に満ちた表情の小品となっています。