ヴァイオリンソナタ 第1番 ト長調 Op.78 「雨の歌」 第1楽章
牧歌的で開放感溢れる曲調の美しいソナタ
《ヴァイオリンソナタ第1番》Op.78 「雨の歌」は、1879年の夏にオーストリア南部のヴェルター湖畔の避暑地ペルチヤッハで作曲された作品です。
ブラームスは1877年から1879年までの3年間この地で過ごしており、その間に交響曲第2番(1877年)やヴァイオリン協奏曲(1878年)なども作曲しています。
「雨の歌」の通称は、第3楽章冒頭の主題がブラームス自身による歌曲「雨の歌 Regenlied」Op.59-3の主題を使用しているためで、この主題は全曲を通して統一感をもたらしています。
構成
第1楽章【ヴィヴァーチェ・ノン・トロッポ】ト長調
少し凝った複雑なソナタ形式による楽章。軽やかで抒情的な雰囲気を備える第1主題と、より活気のある第2主題で展開されます。
第2楽章【アダージョ】変ホ長調
三部形式で叙情と哀愁が入り交じる緩徐楽章。民謡風の旋律がピアノで奏でられ、ヴァイオリンが加わって哀愁を歌います。第1部は葬送行進曲風の調べで、この旋律は第3部で再び回帰されます。
第3楽章【アレグロ・モルト・モデラート】ト短調-ト長調
歌曲「雨の歌」と「余韻」に基づく旋律を主題としたロンド。主題は第1楽章の第1主題と関連があり、また第2エピソードとして第2楽章の主題を使用するなど全曲を通して統一されています。
ブラームスは《ヴァイオリンソナタ第1番》を作曲する以前の1853年秋頃に、イ短調のヴァイオリンソナタを作曲していたとされていますが、この作品はブラームスの自己判断で破棄されたと言われています。
「雨の歌」は、ブラームスにしては明るく親しみやすい作品で、クララ・シューマンが特に好んでいた歌曲と言われていて、同時期に創作したヴァイオリン協奏曲と同様に、牧歌的で開放感溢れる曲調が特徴的です。
ブラームスの紡ぎ出す旋律は、小手先で外面的効果を狙う音楽とはかけ離れており、聴くほどに音楽の本質が引き出されるいぶし銀のようなものです。
《ヴァイオリンソナタ第1番》Op.78 「雨の歌」は、プライベートな非公開の場で、ブラームス自身のピアノとヨーゼフ・ヨアヒムのヴァイオリンによって最初の演奏が行われました。
一般公開の初演はその後の1879年11月8日、マリー・ヘックマン=ヘルティのピアノとロベルト・ヘックマンのヴァイオリンによって行われました。
また、12日後の11月20日には、ブラームスとヨーゼフ・ヘルメスベルガー1世によって再演が行われました。