交響曲第5番 ハ短調 Op.67 「運命」 第3楽章-第4楽章【ベートーヴェン】~音楽作品 名曲と代表曲
クラシック音楽の代名詞的作品として愛されている歓喜の凱歌
《交響曲第5番》「運命」は、《交響曲第6番》「田園」と同時期に並行して書かれた作品ですが、勇壮で輝かしい「運命」と流麗で長閑な「田園」と言うように、両曲は対極的な内容となっています。
ロマン派的な標題音楽の先駆けとも言われる「第6番」とは対照的に、「第5番」では極限まで絶対音楽の可能性が追求されました。
この2つの交響曲はロプコヴィッツ侯爵とラズモフスキー伯爵に併せて献呈され、楽譜の初版は1809年4月に、ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社より出版されました。
1808年12月22日、オーストリア・ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場にて行われた初演では、「運命」が第6番で「田園」が第5番として演奏されています。
この2曲を含む初演のコンサートは、4時間を越えるという非常に長大な演奏会となりました。長時間に及んだことで聴衆や演奏家の体力が大きく消耗したこと、また出演予定歌手のトラブルや演奏の不手際などもあり、初演のコンサートは完全な失敗に終わりました。
「交響曲第5番」は初演こそ失敗に終わりましたが、その後評価はすぐに高まり、多くのオーケストラのレパートリーとして確立されていきました。
また、後の作曲家にも大きな影響を与え、ブラームスやチャイコフスキーといった形式美を重んじる古典主義的な作曲家ばかりではなく、ベルリオーズやブルックナー、マーラーのような作曲家も多大な影響を受けています。
初演プログラム
- 交響曲第5番ヘ長調『田園』(現:第6番)
- アリア "Ah, perfido"(Op.65)
- ミサ曲ハ長調(Op.86)よりグロリア
- ピアノ協奏曲第4番
- (休憩)
- 交響曲第6番ハ短調(現:第5番)
- ミサ曲ハ長調よりサンクトゥスとベネディクトゥス
- 合唱幻想曲
第3楽章は第1楽章の基礎モティーフを活用したスケルツォで書かれており、楽章の開始部で低弦が分散和音型の導入主題を歌い、それに他の楽器が応える形がとられています。
これは教会音楽で古来より用いられてきたレスポンソリウム(応唱)のスタイルを応用したものであり、やがて「交響曲第9番」終楽章でいっそう発展的な形で用いられることになるもので、続くホルンの主唱、それに応える管弦楽の応唱という組み合わせもこれを適用したものです。
第3楽章から切れ目なく続いていく終楽章は、輝かしいファンファーレ風な主題によってその幕が切って落とされ、第2主題は三連音符を巧みに取り入れたものですが、この三連音符は「タタタターン」のリズムをとる基礎モティーフの発展型です。
展開部で第2主題が大きく盛り上がったところで突然pに転じ、4分の3拍子に変わって第3楽章の回想が行われますが、このような前の楽章の回想という手法も、「交響曲第9番」で徹底されることになるベートーヴェン的構成法の一例です。
ベートーヴェンは「交響曲第5番」で、当時の管弦楽では「珍しい楽器」だったピッコロ、コントラファゴット、トロンボーンを交響曲史上で初めて導入しました。
これらの楽器がやがて管弦楽の定席を占めるようになったことを考えると、後の管弦楽法に与えた影響は計り知れず、この点においても非常に興味深い作品であると言えます。