バレエ音楽《眠れる森の美女》 Op.66 第1幕「ワルツ」【チャイコフスキー】~音楽作品 名曲と代表曲
クラシック・ファン以外からも広く親しまれる旋律
バレエ音楽『眠れる森の美女』Op.66は、クラシック・バレエ作品の最も有名なものの一つに数えられます。
ロシア語や英語の題を正確に翻訳すると『眠れる美女』であり、また日本語では『眠りの森の美女』とも訳されます。
シャルル・ペローのおとぎ話『眠れる森の美女』をベースに、サンクトペテルブルクの帝室劇場総裁イワン・フセヴォロシスキーが台本を書き下ろしました。
大まかな物語のあらすじは、『100年もの長い眠りについている美しいオーロラ姫を、リラの精に導かれたデジレ王子は一目見た途端に恋してしまう。
そして、眠っている彼女に口づけすると、魔法は解けて彼女は長い眠りから覚める。そして、お城ではオーロラ姫とデジレ王子の華やかな結婚式が行われていく…』と言った内容です。
チャイコフスキーのバレエ音楽の中で最も演奏時間が長く、全曲を通した上演は優に2時間を要し、原型に基づいた本格的な「眠れる森の美女」の上演時間は4時間にも及びます。
サンクトペテルブルクの帝室劇場総裁イワン・フセヴォロシスキーが、チャイコフスキーにペローのおとぎ話『眠れる森の美女』に基づくバレエ音楽を依頼したのが1888年5月のことでした。
それまでチャイコフスキーがバレエ音楽として書き上げたのは『白鳥の湖』のみで、当時殆ど歓迎されることのない作品でしたので、チャイコフスキーは10年以上もバレエ音楽から遠ざかっていました。
「白鳥の湖」から12年後の1888年8月、48歳になっていたチャイコフスキーは、新作バレエ作曲の依頼の承諾と共に台本を受け取りました。
チャイコフスキーはこの台本を読んで大いに感動し、それを最高に生かす良い着想を得たことをフセヴォロシスキーに伝えました。
振付を担当したのは、ロシア帝室バレエのマリウス・プティパ(振付・演出家)で、プティパは作曲に必要な指示を詳細に記し、その指示に従ってチャイコフスキーは創作に取り掛かります。
1888年の冬に草稿に着手し、オーケストレーションを開始したのは1889年5月ないし6月のことでした。初演は翌年の1890年1月にマリインスキー劇場において行われ、『白鳥の湖』よりも好意的な評価を受けました。
その後この作品は海外の劇場で大ヒットしていきますが、残念ながらチャイコフスキーは1893年に他界し、その栄光の瞬間を味わうことはできませんでした。
チャイコフスキーの三大バレエ音楽の中でも、この《眠れる森の美女》は特に交響的な性格が強く、スケールも大きいと評されることが多いのも、決して故なきことではないと言えます。
チャイコフスキーのバレエ音楽がただ単に踊りの伴奏音楽としてだけでなく、単独に切り離した独立した音楽として聴くだけでも充分に鑑賞に耐え、魅力的であるのはこうした所にも要因があります。
「ワルツ」は1959年公開のディズニー映画「眠れる森の美女」の主題歌「いつか夢で(Once Upon a Dream)」に使用され、クラシック・ファン以外からも広く親しまれる楽曲です。