鍵盤楽器

鍵盤楽器は鍵盤を打鍵することによって演奏する楽器で、発音源は様々なものがあります。
鍵盤の操作性は豊かな音楽表現を可能とし、高度な音楽を奏でることができます。

鍵盤でピッチコントロール

鍵盤楽器は、ピッチが定められた各鍵盤(キーボード)を打鍵して音を奏でるという操作性に優れた楽器で、10本の指を巧みに操ることができるため、一人で複数の声部を担当し、高度な音楽性を持つ作品を演奏することが可能となります。

発音源は様々なものがあり、オルガンやアコーディオンは、管の共鳴やリードの振動を利用して音を発生させる鍵盤楽器で、チェンバロやピアノは、弦の振動を利用して音を発生させる鍵盤楽器です。

シンセサイザーなどの電子楽器は、電子回路を利用して音を発生させる鍵盤楽器です。シンセサイザーやキーボード類の電子楽器も、鍵盤を操作して弾く演奏方法には変わりはない為、鍵盤楽器の指使いに慣れている経験があれば、新たな楽器が登場しても演奏することができます。

多彩な表現力を備えたピアノ

弦の振動を利用した最古の鍵盤楽器は、クラヴィコードであるといわれていますが、鍵盤楽器として最も代表的な楽器は、18世紀以降に登場し活躍するピアノです。

ピアノは略称で本来はピアノフォルテといいます。前身楽器のチェンバロは強弱が自由に出せず、またクラヴィコードは音があまりにも弱いため、17世紀頃イタリアの楽器を修理するバルトロメオ・クリストフォリが、チェンバロのボディーを活用して現代のグランド・ピアノの原型を作ったことに始まります。

当初は「ピアノとフォルテが出せるチェンバロ」と名付けられましたが、次第に略されて「ピアノフォルテ」になり、さらに略されて現在の「ピアノ」に至りました。かつては「フォルテピアノ」と呼ばれたこともあり、現代でもロシア語の正式名称になっています。

ドイツでは「ハンマークラヴィーア(ハンマーで打って音を出す鍵盤楽器)」、または単に「クラヴィーア」といい、グランド・ピアノは形が鳥などの翼に似ているところから「ハンマーフリューゲル」、または「フリューゲル(翼)」ともいいます。日本では「洋琴(西洋の琴)」と呼ばれたこともあり、中国では鋼琴といいます。

ピアノが考案されて現代に至るまでの間には、ボディーや脚に象牙や真珠を散りばめて装飾を施した「アートピアノ」、キリンの形をした「ジラフ・ピアノ」、ピラミッドの形をした「ピラミッド・ピアノ」、足でも音を出せる打弦式の「ペダル・ピアノ」、鍵盤が2段式になっている「2段鍵盤ピアノ」、264個のタイプライター式キーがある「半音階ピアノ」など色々なピアノが作られています。

現代においても、ボディーが透明で内部の構造や動きが見える「透明ピアノ」、「自動ピアノ」「電気ピアノ」「電子ピアノ」など様々なピアノが製作されています。

日本には1800年代の初期に、長崎にいたシーボルト(ドイツ人医師)がイギリス製のピアノを移入したものが最初といわれています。

ピアノの音域はオーケストラの音域に匹敵するほど広く、また音楽的表現能力にも優れているところから「楽器の王」とも呼ばれています。

ピアノ音楽は、厳密にはピアノが考案された以降のクレメンティ、ハイドン、モーツァルト以降になりますが、通常はそれ以前のチェンバロやクラヴィコードの音楽も含めていいます。

ピアノの鍵盤に取り付けられているアクションと呼ばれる機構は、鍵盤を押し下げる動きをハンマーが弦を叩く動きに変換します。

力を入れて鍵盤を打鍵した場合は、ハンマーの速度が上がることによって大きな音になり、逆に鍵盤をゆっくりと押し下げれば、小さな音が出るといったように音の強弱を可能にしました。

この機構により指毎の音量をコントロールできるため、伴奏に対してメロディーを際立たせるテクニックも可能となり、それまでの鍵盤楽器にはない広いダイナミック・レンジ(音量の強度差)を備える楽器となりました。

ピアノの音域拡大と進化に伴い、多くの作曲家がピアノの表現力を活かして楽曲の制作を行い、19世紀ロマン派ではショパン、シューマン、リストなど著名な作曲家が数々のピアノの名曲を残し、「ピアノの時代」であったといわれています。

このロマン派の作曲家が活躍するロマン主義の時代は、楽器の進化と音楽の発展が相乗効果をもたらした時代でした。現代のピアノは88鍵あり音域は7オクターヴを越えます。

最低音部では1つの鍵盤に対して1本の弦、それより少し高い帯域では2本の弦、さらに高い帯域では3本の弦が響板に固定され、各音域の音量バランスがとられています。

ピアノのアクション機構

グランドピアノ

アップライトピアノ

ピアノの3つのペダル機能

  1. ダンパー・ペダル…打鍵した音の響きを持続させる
  2. ソステヌート・ペダル…直前に弾いた音のサステインのみを残す
  3. ソフト・ペダル…ハンマーの打つ弦の本数を減らし音色を変える

多彩な音色を備えたパイプオルガン

パイプオルガンは楽器としては最大規模の鍵盤楽器で、鍵盤を使って演奏しますが、発音源としては風の力でパイプを鳴らしパイプ(管)の共鳴を利用して音を奏でます。

通常、単にオルガンといえば欧米ではパイプ・オルガンのことをいいますが、日本ではリード・オルガンのことを指します。これには、それぞれに普及しているオルガンが異なるためです。

パイプ・オルガンは古い歴史をもつ楽器で、その音楽はヨーロッパ音楽の中心的存在であった時代もあり、欧米では音楽堂、教会、学校などにあるほど普及していますが、日本では一般的にリード・オルガンが普及しているため、パイプ・オルガンの歴史は浅く台数も少ないのです。

パイプ・オルガンは、オルガンを設置する建物の規模によって注文製作され、建物自体に備えつけられる楽器です。パイプオルガンの各パイプは1つのピッチのみで、それぞれが木管楽器になっており、パイプにはエア・リード楽器の原理で鳴るフルー・パイプと、リード楽器として鳴るリード・パイプがあります。

この種のパイプオルガンは建物に備え付けられたものなので、コンサート・ホールや教会そのものが楽器であるといえ、建物も楽器の一部と見なせるほど音響効果に大きな影響を与えます。

本格的なパイプオルガンでは、巨大なサイズと数え切れないほどのパイプの数があります。大型のものは高さと幅が共に10m、全重量100トン以上に達しパイプは1万本に及びます。

標準規模で1,000本~4,000本、パイプの長さは1m~5mに及び材質や形態などによって音色や音量が異なってきます。基本周波数(ピッチ)としては30Hzから15kHzまでをカバーします。

これらの多様なパイプを組み合わせて音を出すことで、様々な倍音列を構成できるので、パイプ・オルガンは多彩な音色を奏でることができます。

音色の制御はストップ・ノブと呼ばれるもので、発音させるパイプ列を選択することによって行います。

鍵盤は規模によって2~7段に分かれ、各段によって鳴らすパイプ群が異なるので音色や音量も違ってきます。ペダルはペダル鍵盤とも呼ばれ約30個ほどが備えられ、手の鍵盤と同様の働きを行い、両サイドにある巨大なパイプ群を鳴らし低音を受け持ちます。

音域は約10オクターヴで、管弦楽やピアノの7オクターヴよりはるかに広い音域の音を出すことができます。起源は紀元前数世紀のパンの笛と呼ばれる、大小異なる数本一組の笛から発達したものといわれています。

オルガンの形態をした最古のものは、紀元前3,000年頃の水力によって風を送る水力オルガンです。現代では電気モーターが用いられています。

パイプ・オルガンは15世紀頃から教会で用いられましたが、風力が弱く音量があまり出せないため、聖歌の伴奏として旋律を弾く程度で声楽に付随する楽器でした。

オルガン音楽がヨーロッパ音楽の中心的な存在であったのは17世紀からバッハまでの間で、主に教会の礼拝用音楽として栄え、バッハによってオルガン曲は完成されました。

オルガン音楽の特色の一つは、最低音域を受け持つ巨大なパイプ群が鳴り響く壮大華麗な音量で、他の楽器では聞かれることのない地響きのような重低音は、現代の進歩した再生装置でもこの実感を表現することはできないのです。

パイプオルガン

<スペイン トレド大聖堂のパイプオルガン>

様々な鍵盤楽器

ピアノ

外国語表記

〔英:piano,pianoforte〕

〔独:Klavier〕

〔仏:piano,pianoforte〕

〔伊:piano,pianoforte〕

〔略:Pf. / Klav.〕

解説

  • 18世紀初期にイタリアで誕生したピアノは、それまで主流であったチェンバロでは不可能であった強弱の表現を可能にしたことで、瞬く間にヨーロッパ中に知れ渡りました。名称の由来も「強弱(ピアノ/フォルテ)の出せるチェンバロ」からきています。
  • 音域や細部の構造は時代と共に変化してきましたが、金属製の弦を鍵盤につながっているハンマーが叩くという構造は同じです。現代では88の鍵盤を持ち、あらゆる楽器の中で最大の音域を持ちます。
  • 打鍵した音の響きを持続させるためのダンパー・ペダル(右側のペダル)、直前に弾いた音のサステインのみを残すソステヌート・ペダル(グランドピアノの中央のペダル)、ハンマーの打つ弦の本数を減らし、音色を変えるためのソフト・ペダル(左側のペダル)の3つのペダル機能を持つことで、さらなる表現力を確保しています。

チェンバロ

外国語表記

〔英:harpsichord〕

〔独:Cembalo〕

〔仏:clavecin〕

〔伊:cembalo/clavicembalo〕

解説

  • 16~18世紀にヨーロッパで最も広く用いられた鍵盤楽器。金属製の弦を鳥の羽軸などでできた爪でハジくような構造になっており強弱は付けられないです。
  • 独奏のほかに当時のオーケストラの指揮は、チェンバロでベース・ラインなどの伴奏を補強しながら行われていました。

チェレスタ

外国語表記

〔英:celesta〕

〔独:Celesta〕

〔仏:celeste〕

〔伊:celesta〕

解説

  • グロッケンシュピールなどのような鉄琴用の金属片を、鍵盤装置を介してハンマーで打つ楽器。アップライト・ピアノを小さくしたような外見をしています。
  • チャイコフスキーはパリでこの楽器を発見した際に即座にロシアで導入し、作曲中であったバレエ『くるみ割り人形』の中の「こんぺいとうの踊り」に使用し、バレエの上演前に組曲形式でいち早く初演しました。

エレクトリック・ピアノ

外国語表記

〔英:electric piano〕

解説

  • ピアノのような打弦構造にピックアップやアンプ、スピーカーなどを組み合わせた電気ピアノの総称で通称エレピ。
  • ローズ・ピアノやウーリッツァー・ピアノ、グランド・ピアノに近い構造のエレクトリック・グランド・ピアノなどが有名で、ジャズからポップスまでポピュラー音楽において幅広く利用されています。

オルガン

外国語表記

〔英:organ〕

〔独:Orgel〕

〔仏:orgue〕

〔伊:organo〕

解説

  • パイプ(笛)を発音源とする鍵盤楽器。複数の手鍵盤(多いもので6段)と足鍵盤からなり、「ふいご」という送風装置からパイプに送られる風を鍵盤で操作することで音を出します。
  • 現代では電気で送風しますが、バッハの時代は「ふいご」職人という専門職があり人力で風を送っていました。ストップという機能を用いて音色を変化させることもできます。
  • アップライト・ピアノのような外見を持ち、足踏みペダルを踏んで送風を行いながら演奏する小型のオルガンはリード・オルガン(英:reed organ)やハーモニウム(英・仏:harmonium)と呼びます。
  • 19世紀に開発されオペラの伴奏などで使われたほか、明治以降の日本の教育にも取り入れられました。20世紀に入るとハモンド・オルガンを始めとした電気オルガンも登場し、教会を中心に発展してきたオルガンは新たな社会的地位を得るに至りました。



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