金管楽器
金管楽器は、マウスピースと呼ばれるロート状の器具内の唇の振動が発音源となっています。
唇の振動は管内で共鳴し、ファンファーレのような勇壮で輝かしい煌びやかな音色を奏でます。
唇の振動で音を奏でる
いずれの金管楽器も、ロート状のマウスピース内の唇の振動が発音源となっています。そのためリップリード楽器ともいわれ、トランペット、ホルン、トロンボーン、チューバなどが代表的で、ラッパといわれる楽器類も金管楽器に分類されます。
唇の振動は自由にコントロールができるので、マウスピースではどのようなピッチの音でも出すことが可能です。マウスピースを楽器本体に取り付けた状態では、管の共鳴周波数でピッチが定まります。
一般に金管楽器の音の出力先には、ベルと呼ばれる朝顔の花びらのような開口部があり、この開口部の形状は高音域を強調する効果があります。
また、金管楽器類では強く吹いた際に音量だけではなく、倍音が豊かになり輝かしい音色になることが特徴です。
金管楽器構造の概略図
金管楽器の特徴
金管楽器は一般的に管が巻かれて形成されている楽器で、全体の管の長さで共鳴周波数が定まります。トロンボーンは、2本の長いU字形をしたスライドと呼ばれる金属管を、伸縮させて管の長さ調節を行いピッチをコントロールしています。
管の長さが短くなるにつれて共鳴周波数が上昇し、高いピッチの音が出る仕組みになっています。管弦楽ではトランペットの低音楽器として用いられる重要な楽器です。
トランペットは、ピストンやロータリーのバルブを押すことによって管長が変化する仕組みになっており、オクターヴ上の音と完全5度上の音は、同じバルブの押さえ方(同じ管長)で演奏者の唇のコントロールによって吹き分けます。
トランペットは金管楽器を代表する楽器で歴史は古く、原型は木や青銅で作られた真っ直ぐで長いラッパでした。
これは紀元前2000年頃の絵画や壁画に見ることができ、古くは宗教行事、競技、宴会、軍隊の信号、合図、塔の上から時刻を知らせたり、ドラムと一緒に行進に用いられるなど実用的な面で用いられていました。
現代のトランペットの形になる以前は、バルブがない一本の管のような構造のナチュラル・トランペットという楽器が用いられていました。
出せるピッチは倍音系列の周波数に相当する音のみでしたが、バロック期のバッハの時代に活用され高音域を駆使した楽曲が残されています。
ホルンは細長い管が円形に巻かれ、その先端が大きく広がった金管楽器で、金管楽器の中でも形態と奏法と音色に最も特色のある楽器です。
奏法は右手の指を揃えて軽く曲げ、大きく開いた管の先端に差し込み、音色や音程を加減調節するという管楽器中最も難しいものです。音色は木管楽器に似ているため、金管楽器であっても木管楽器に加えられることがあります。
起源はトランペットと共に管楽器中最も古い楽器とされ、現代の型の原型はフレンチ・ホルンといわれるようにフランスで用いられていた狩猟用の角笛から発達したものです。
円形に巻かれた管は、首や肩にかけて持ち運びしやすいように考案されたものといわれ、17世紀中頃にこの狩猟用のホルンが管弦楽に用いられ、19世紀に現代の形状のホルンになりました。
手で完全に管を閉じた状態で演奏することを、ゲシュトップ(ハンド・ストップ奏法)と呼び、現代の譜面では音符の上に「+」の記号が付いた音をゲシュトップで演奏します。
ゲシュトップではピッチが高くなり、高周波領域にエネルギーの豊富な鋭い音色になります。
ゲシュトップ記号が記された楽譜
「+」・・・ストップ
「0」・・・オープン
金管楽器各部の名称
- トランペット(ピストンバルブ式)
- トランペット(ロータリーバルブ式)
- ホルン
- トロンボーン
金管楽器
ホルン |
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外国語表記 |
〔英:horn / french horn〕 〔独:Horn〕 〔仏:cor〕 〔伊:corno〕 〔略:Hrn / Cor〕 |
解説 |
狩猟の角笛から発達した楽器で、細長い管を円形に巻いた形状をしています。開口部(ベル)は後ろを向いており、右手をその開口部に入れて微妙な音色や音程を調整します。ベートーヴェンやシューベルトの時代まではナチュラル・ホルンという、管を巻いただけの楽器であったため、楽曲の調によって管の長さの違う楽器を使い分ける必要がありました。また、ベルに入れた右手や、口先だけで音程を変えるために、音階を演奏することは難しく不可能でした。音階演奏が容易なヴァルヴ・ホルンの普及は19世紀半ばのことです。そのため、古典派やロマン派初期の作品には様々な調によるホルンが使われていました。現代では主にF管が使われています。 |
トランペット |
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外国語表記 |
〔英:trumpet〕 〔独:Trompete〕 〔仏:trompette〕 〔伊:tromba〕 〔略:Trp. / Tp. / Tba.〕 |
解説 |
その歴史は古く、原型は古代エジプトにもあったといわれています。古くは主に軍楽隊などで使われていましたが、17,8世紀になるとトランペットを用いた楽曲が盛んに作られるようになります。但し19世紀半ばにヴァルヴ・トランペットが開発されるまでは、ナチュラル・トランペットという管を巻いたものにマウスピースという吹き口が付いただけのもので、音階の演奏は不可能でした。このために古典派の作品には様々な調によるトランペットが使用されました。現代ではB♭管やC管が主流です。20世紀に入ると、ポピュラーやジャズにもトランペットが使われ始め、ルイ・アームストロングやマイルス・デイヴィスなど、数多くの巨匠が活躍しました。 |
コルネット |
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外国語表記 |
〔英:cornet〕 〔独:Kornett〕 〔仏:cornet / a pistons〕 〔伊:cornetta〕 |
解説 |
トランペットによく似た金管楽器で、トランペットよりも柔らかな音色をしています。元々はポスト・ホルンと呼ばれる郵便ラッパにヴァルヴを付けたのが始まりで、19世紀後半にはフランスやイギリスなどでトランペットの代わりによく用いられていました。現代では、吹奏楽に幅広く用いられている一方、柔らかな音色を求める指揮者の指示で、トランペット・パートの一部をコルネットに持ち替えて演奏することもあります。 |
フリューゲルホルン |
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外国語表記 |
〔英:flugelhorn〕 〔独:Flugelhorn〕 〔仏:bugle〕 〔伊:flicorno〕 |
解説 |
コルネットと同じ音域をもつ変ロ調の金管楽器。コルネットを全体的に太らせたようなフォルムを持ち、ベルも大きいです。音色は非常に柔らかく表情豊かであり、叙情的な旋律を歌わせるのに向いています。 |
トロンボーン |
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外国語表記 |
〔英:trombone〕 〔独:Posaune〕 〔仏:trombone〕 〔伊:trombone〕 〔略:Trb. / Pos.〕 |
解説 |
トランペットを大型にしたような形をしていますが、U字形のスライド管を動かすことでピッチを変えることができます。15世紀頃に登場してからは教会の合唱を支えたり、町の楽団などに急速に普及しました。16,7世紀頃には通常のテナー・トロンボーン以外にも、アルトやバスなどの5種類がありました。18世紀後半からはオーケストラにも採り入れられ、ベートーヴェンの交響曲第5番で初めて交響曲に使用されました。 |
ユーフォニアム |
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外国語表記 |
〔英:euphonium〕 〔独:Euphonion〕 〔仏:euphonium〕 〔伊:eufonio〕 〔略:Euph.〕 |
解説 |
小バスとも呼ばれ、幅のある深く柔らかな音を出し、吹奏楽の中でも重要な位置を占めています。稀にバリトンと呼ばれることもあります。 |
チューバ |
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外国語表記 |
〔英:tuba〕 〔独:Tuba〕 〔仏:tuba〕 〔伊:tuba〕 〔略:Tub. / Tba.〕 |
解説 |
ヴァルヴが付いた太い円錐管の低音金管楽器。重厚な音色が特徴で、19世紀の半ば頃から管弦楽にも使用されるようになりました。管弦楽ではトロンボーンと同じ五線に記譜されることが多いです。B♭管とF管の移調楽器ですが、移調せずに書かれるのが一般的です。また、マーチングやパレードに使用されるときに演奏者の体に管を巻き付けたようなチューバは、特にスーザフォン(sousaphone)と呼ばれます。スーザフォンとは、アメリカの作曲家でマーチ王とも呼ばれる、ジョン・フィリップ・スーザによって考案されたチューバの名称です。 |
その他の管楽器
ポストホルン |
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外国語表記 |
〔英:post horn〕 〔独:Posthorn〕 〔仏:cornetta di postiglione〕 〔伊:cornet de poste〕 |
解説 |
郵便馬車の御者などが発着を知らせるために使ったヴァルヴのない小型の金管楽器。後にヴァルヴが付けられ、コルネットに発展していきます。モーツァルトやマーラーが作品中に郵便馬車の描写をするために使用しています。また、ベートーヴェンの交響曲第8番第3楽章「メヌエット」のトリオ部のホルンのフレーズは、作曲時に滞在していたカールスバートのポストホルンの旋律を模したものであるといいます。ドイツの郵便局のマークはポストホルンを図案化したものです。 |
ワーグナー・チューバ |
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外国語表記 |
〔独:Wagnertuba〕 |
解説 |
ドイツの作曲家ワーグナーが、自身の楽劇「ニーベルングの指環」で使用するために考案した特殊なチューバ。ホルンのマウスピースを付けて演奏するため、チューバ奏者ではなくホルン奏者によって演奏されます。ワーグナー以外にも、ブルックナーの交響曲第7番、第8番、また、Rシュトラウスの「アルプス交響曲」にも使用されています。 |