ヴァルブ/スライド
金管楽器の息の通り道を違う長さの管に切り替える装置のこと。
ヴァルブは管の連結を「ワンタッチ」で切り替えてくれます。
1813年にポーランド人のブリューメルとシュテルツェルによって発明されました。
管楽器の【ヴァルブ】
基本的にはヴァルブを押したときに迂回管を通るような構造を備え、管の長さが長くなることにより音程が変わる仕組みになっています。
ヴァルブは大別すると二種類に分けられ、円筒形の筒を直接押す「ピストンヴァルブ」と、円筒形の筒をガスの元栓のように回転させる「ロータリーヴァルブ」があります。
トランペットやユーフォニアムにピストンヴァルブ、ロータリーヴァルブはホルンやチューバに備え付けられていることが多いですが、ドイツやオーストリアではトランペットを始め、殆どの楽器にロータリーヴァルブが採用されています。
また、トロンボーンのF管アタッチメントの切り替えには、長年ロータリーヴァルブが採用されてきましたが、今日ではセイヤーヴァルブ、ハグマンヴァルブ、Vヴァルブなど様々な新機構のヴァルブ装置が装着されるようになっています。
「ヴァルブ」が発明された当時は、3本のヴァルブで半音階も自由に吹くことができるホルンが作られ、「クロマチック(半音階)・ホルン」と呼ばれていました。
ナチュラル・ホルンと区別され、このクロマチック・ホルンのシステムは、ホルン以外の金管楽器にも応用されていきました。
「クロマチック・ホルン」に関心を寄せ、いち早く自作に取り入れた作曲家がシューマンであり、名曲『アダージョとアレグロ』(1849)は、ヴァルブ・ホルンのために書かれた独奏曲です。
半音階を伴うのびやかな旋律構造は、それ以後の金管楽器のスタイルにも影響を及ぼしました。ヴァルブが普及した後も、古来の楽器の響きや奏法にこだわりを持ち続けた音楽家もおり、ブラームスが自作の『ホルン三重奏曲』(1865)にナチュラル・ホルンを指定しています。
音楽の都ウィーンでは、古い時代に開発された「ヴァルブ・システム」によるホルンが、今日もウィーン・フィルなどで用い続けられています。
この「ウィンナ・ホルン」の伝統をオーケストラだけではなく、小規模レベルでも守っていこうという団体も存在します。そのグループ「ウィーン・ヴァルトホルン合奏団」は、『ウィンナ・ホルンの饗宴』によって古き良き時代のサウンドを今日に伝えています。
管楽器の【スライド】
口径が異なる内管と外管を重ね合わせた構造で、外側の管を移動させる部分のこと。
スライドの抜き差しにより、管の長さを伸縮させて音程を変化させる仕組みですが、感覚的に自由に調節できることから、微妙な音程の調節を可能としています。
スライドを備える代表的な楽器では、U字型スライドのトロンボーンがあります。トロンボーンの歴史は古く、基本的な構造やその姿は原形を留めています。
スライド操作により自由な音程が得られるため末永く愛用され、奏でられるハーモニーの美しさから「神の楽器」と言われ、教会音楽では重宝されていました。
その他のスライド装置の仕組みは、金管楽器のチューニング部分や、トランペットの音程の微調整を行うトリガーにも用いられています。