能楽の流儀と役割

現代でも江戸時代からの分業制度が厳然と守られている能楽では、シテ方、ワキ方、狂言方、囃子方の各役から必要な人数の役者が出て、一つの舞台を形成します。
シテ方とは主に仮面を用いた演技でシテという主役を担当するほか、地謡という斉唱団を組織するグループのこと。必ず現実に生きている男性として登場するワキ役を、面を用いない直面という形で演じる集団をワキ方と言い、狂言方とは独立した狂言=本狂言を演じたり、能の中で間狂言という役割を担当するグループのこと。

能楽の流儀

囃子方は能管、小鼓、大鼓、太鼓と4種類の楽器の中の一つを専門に持ちます。各役にはそれぞれ流儀があり、役者は必ずどこかの流儀に属しており、その流儀を変更することは認められていません。

シテ方5流のうち、端正な芸風を持つ観世流と質実を誇る宝生流の2流を上リと言い、古風な趣を保つ金春流、華麗な舞台を特色とする金剛流、武士道的な精神を芸に生かす喜多流の3流を下掛リと言います。

江戸時代はシテ方が囃子方などを抱える座付制度が確立していましたが、明治以降シテ方、ワキ方、囃子方、狂言方はそれぞれ自由に流儀を組み合わせて舞台を作るようになりました。

結果、同じ能でありながら、その組み合わせによって何百・何千通りかの能が誕生するということになりました。

演能の場

能楽は三間(約6メートル)四方の本舞台と呼ばれる空間と、客席から向かって左手に伸びる廊下のような橋掛リからなる能舞台という専用の舞台を有します。

この能舞台は屋根付きですが、現在では各流儀や国立能楽堂などが持つ能楽堂という劇場は、建物の中に能舞台を収め、二重に屋根を持つ構造になっています。

今日では能楽堂における屋内の公演が主流となっていますが、これは明治以降に普及したもので、屋外での演能が元々の姿であります。

世阿弥は自然の中での演技論なども展開しており、能楽本来の持つエネルギーと、屋内という自然から遊離した空間での演能には、当然ながら隔たりのあることが考えられます。

昭和25年(1950)に京都の平安神宮で始まった薪能は、今や全国各地で催されていますが、これは能楽自体が志向する自然への回帰の現れであると感じられます。

東京の国立能楽堂のほか、地方にも能楽堂が増える一方、仮設舞台を使ってのホール能も盛んに行われていますが、昭和29年(1954)のヴェネツィア演劇祭への参加を皮切りに、日常化した海外公演など演能の場と機会の広がりが、現代の能楽の一つの特徴と言えるでしょう。

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