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歌舞伎音楽

歌舞伎の音楽を声の音楽と楽器の音楽に分けて記述すると、別表のようになる。これらの曲種や楽器の種類のなかで、演劇的な要素に関わる傾向の強い項目には*印をつけた。また歌舞伎《勧進帳》に使われている項目については、線で囲った。[ ]内は演奏場所である。

 

a~fの曲種は<節>をつけて呼ぶことが多いが、清元の場合<節>をつけると特定の流派を指すことにもなるので、ここでは節をつけない呼称にした。これらのさまざまな音楽が、歌舞伎の進行に沿って選ばれ組み合わされる。たとえば次のような組み合わせがある。

 

① + a + i + ⑧
②十h十i十k
①十h十i十k十⑧ b十c十k

 

義太夫( a )は、文楽の演奏者とは別のグループが歌舞伎専属で演奏している。戯曲の内容は文楽と共通であるが、歌舞伎の場合、会話部分は主として役者が受け持ち、ト書きや会話の途中から情緒が高揚したような場合、客観的な叙述を必要とする場合に、役者の台詞の途中から義太夫の役割となる。歌舞伎は、役者中心の筋の運びとなるため、本来の人形浄瑠璃の義太夫(本行)を簡略化する場合もある。

 

歌舞伎専門の義太夫節の演奏者を、その姓を取って<竹本>と呼ぶ。竹本の役割は、役者の動きや台詞を活かすことであるから、同じ義太夫節であっても本行とはテンポ感、間奏の長さ、三味線の掛け声の頻度などの点で異なった表現様式を多くもつ。さらに、黒御簾音楽、効果音、ツケなどのほかの音と総合される点も多い。
bからeまでは、主として舞踊の場面(所作事)に用いられる。どの曲種も3人以上の語り手と三味線との合奏である。これらの曲種は、類似したルーツを持ち、その後の継承過程のなかで個人の発声性や音楽特性によって部分が変化してきたものと考えられる。

 

したがって作品の内容には共通点が多く、三味線も中棹を用い、旋律法にも多くの共通点をもつ。相違点としては、声の音域と音色の違い、三味線の装飾法や開始法、終止法における音高配列の違いがある。

 

常盤津(b)や清元(C)は道行や所作事の音楽としての用例が多いが、清元は、芝居のなかで男女の情感を強調する効果にも使われる。河東(d)は《助六》の登場音楽として有名であり、宮薗( e )も《烏辺山》など道行の曲として有名。これらの江戸で育った浄瑠璃が、歌舞伎のなかで同時に舞台に登場して掛合い形態で演奏されることもある。

 

大薩摩( f )は、かつての浄瑠璃の一派であった大薩摩節が衰退して長唄に吸収された(1868)後、本来の大薩摩節の特徴を長唄のなかに取り入れたものである。歌舞伎では時代物(江戸時代以前の政治的事件を扱った芝居)の幕開きで使われる例が多く、三味線の豪快な分散和音奏法が特色となっている。

 

長唄( g )こそ歌舞伎のなかで独自に発展した代表的な声の音楽といえよう。三味線はもっとも細い棹の楽器(細棹)を用い、撥も薄く、駒の高さもほかの浄瑠璃より低めである。したがって、音色は高音域で鋭さをもっている。そして、この甲高い鋭さを、日本人は派手な音と意識している。

 

長唄の役割には、所作事の伴奏としての役割と黒御簾で場面の情景描写を行う役割とがあり、後者には唄が主体となるけいこ唄や在郷唄などの類や三味線や囃子による楽器だけの音楽(合方)がある。

 

(h)は、 声の音楽のさまざまな要素を取り入れ、木遣、馬子唄、舟唄、三味線付きの民謡などが歌舞伎風に変えられた形で演奏される。合方は三味線合奏だったり、時には囃子が加わった形の音楽で、立回りの場面や幕開き、また必要に応じてストーリーのなかで心理描写や情景描写に取り入れられている。

 

⑤囃子は、管楽器と打楽器の音楽である。それぞれの楽器は、雅楽や能など、さまざまな音の現場から持ち寄られたもので、音の出るものに何にで好奇心をもった近世の庶民性を表した例といえよう。能の楽器の場合は、能式の舞台(松羽目物)に登場して演奏されることが多いが、御簾内で任意に楽器を組み合わせて演奏することもある。

 

黒御簾音楽は従来下座音楽とよばれることが多かったが、近年の傾向として、陰囃子とか歌舞伎囃子と呼ばれている。黒御簾音楽のなかでもっとも歌舞伎らしい音は、大太鼓を4種類の桴で打つ音である。長くて先の細い桴(長桴)、普通の短めの桴(太桴)、棒の先端を布や裏皮で丸く包み込んだ桴(雪バイ)、竹桴の4種で、雨、風、川、波、雪、雷などの自然現象の音や、心理描写、祭囃子の賑わいなどを表現する。

 

⑥は舞台の音響係や大道具係によって受け持たれ、法螺貝、雪の音、風の音、鳥や虫の鳴き声、 波の音などを⑤と異なった発音具を使って表現するものである。

 

⑦拍子柝は開幕前の出演者や舞台関係者への合図や幕の開閉の際に打つが、現在狂言方と呼ばれる専門職がこれを受け持っている。

 

⑧ツケは、動きの効果にアクセントをつけるために打つ音のことで、戦いの場面(立廻り)や、動作の決まった時(見得)、筋の進行において重要な役割をする手紙のような物が落ちた時など、舞台上手の舞台端で、小さめの拍子柝の形をした2本の棒(ツケ柝)を板に打ち付けて音を出す。

 

小道具方、大道具方のなかから専門に打つ人が決められる。④~⑧は互いに総合される場合が多く、そのさまざまな組み合わせは<歌舞伎的な音>の特徴になっている。

◆歌舞伎音楽の楽譜

 

楽譜の機能は「記憶のための記録」という程度であり、楽譜が優先されることはなかった。また、曲種によってその記譜法は異なる。浄瑠璃や唄の声楽部分の記譜法は、謡曲の記譜法の影響を受けて作られたが、現在は本来の記譜法の解読が困難になっている。江戸時代、三味線は日本語の<いろは>文学で記譜されてきたが、長唄の場合20世紀前半に西洋音楽の記譜法の影響を受けた数字譜に変わった。

 

一方、義太夫三味線は<いろは記譜法>をそのまま受け継いでいる。常盤津・清元の三味線にはとくに決まりがなく、人によっては長唄式の数字譜を用いている。囃子の記譜法は、能の囃子の方法を受け継いでいるが、歌舞伎独自のリズム型を表す記号も生まれてきた。また、歌舞伎の音楽の流れ全体を記す総譜としては<附帳>と呼ばれるノートがある。

 

附帳は半紙を二つ折りにした横長の大きさで、歌舞伎上演のたびに、音楽の入るきっかけとなる主な台詞を墨で抜き書きし、その間に囃子や長唄の曲名を書き込んで作られる。演奏のきっかけを書き込んでいるので、キッカケ帳とも呼ぶ。

 

歌舞伎の音楽には江戸時代から昭和までの日本にあった楽器のほとんどが取り入れられている。現在でも、連続する新しい試みのなかで、シンセサイザーを意欲的に取り入れるグループもあり、常に同時代とのコミュニケーションを密にした音楽作りが歌舞伎の本来の姿でもある。これらのさまざまな声と楽器が選ばれて、舞台進行に合った構成が考えられる。

  




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