教育や世界においての日本音楽

昭和30年代から急速に勢いを増した学校教育での西洋音楽教育や、一般家庭での洋楽教育の大きな広がりは、残念ながら日本音楽の居場所を極めて限られたものへと追いやっていきました。
昭和33年に始まるリコーダー教育は、ドレミの出にくい横笛を遠ざけたばかりではなく、日本の楽器の音色を音楽の範疇から遠ざける原因にもなりました。
合唱コンクールや器楽コンクールの隆盛によって、日本の伝統的な声の文化にも異変が起こり、民謡の声は美しい声の基準から外れ、楽器の意味する範囲も洋楽の楽器中心となっていきました。

教育における日本音楽

昭和30年代、洋楽に焦点を当てた音楽教育に対して、日本人の音の文化を再考するべきと考えた民族音楽学者の小泉文夫は、子供たちが日常の中で遊びながら歌うくわらべうた〉に注目し、わらべうたを用いた音楽教育を提唱し、一時教育界でブームを引き起こしました。

昭和34年、小泉の著書「日本伝統音楽の研究I』の書名により、く伝統音楽〉という言葉も一般化しましたが、わらべうたによる音楽教育は、わらべうたから邦楽という展開を迎えないまま挫折していきました。

音楽授業におきましても、鑑賞中心だった日本音楽をもっと身近なところへ近づけようとする動きが強まり、楽器の旋律をく唱歌〉で歌ったり、代替楽器を用いて演奏して理解する、表現教材として扱う方法へと変わっていきました。

ワールド・ミュジックの中の日本音楽

学校の外では、1970年代後半に始まったエスニック・ブームが日本音楽の再認識へとつながり、若者たちの間で思い思いの日本音楽へのアプローチが行われ始めました。

近年の傾向としては、伝統音楽の世界に生まれた演奏家が自らの世界を広げることを目的に行われる場合と、外の世界の演奏家が、楽器や声を自由な方法で取り入れる場合とがあります。

前者の例としては、三線と太鼓を中心とする楽器編成の沖縄音楽のグループや、箏や尺八の演奏家がシンセサイザーを取り入れるような例、また民謡の歌い手がロックのリズムと共に追分を歌うなどの例があります。

そして後者の例では、ロックの演奏家が太鼓や笛をバンドに取り入れたり、平家物語や義太夫の文章を、ギターやドラムと共に歌い上げたりと言った様々な活動があります。

これまで続いてきた中央集権的な文化の見直しが叫ばれる1990年代には、日本各地の村起こしや町起こしに日本音楽が使われる例も多くなり、様々な土地で色々な太鼓グループが発足し、各地の祭りが近年活気を呈してきました。

また、伝統音楽や伝統楽器を直接用いた音楽作りとは別の観点で、日本の音を再評価しようという動きも起こりました。それは、自然音と共生してきた日本人の音に対する感性を再び見直そうとする動きでもあります。

これらの様々な動きは、ただひたすら欧米の文化を摂取することに邁進してきた結果、自らのよって立つ所を失ってきたことへの疑問による一種のバランス感覚なのかも知れません。

伝統と呼ばれる音楽の内容は、決してある型に固定されるだけのものではなく、常にその時代の要求によって変容しつつ動いてきたものと言えます。

したがって、これまで様々なジャンルに分かれてきた伝統音楽の世界が、現代において全く過去のものになってしまったかというと、そういう訳でもありません。

本当の所は、演歌やポップス歌手の歌い方の中にも浄瑠璃の様式を聞くこともできますし、映画音楽の扱いの中に歌舞伎音楽と共通の音楽様式を見ることもできます。

他にもロックギターの演奏法の中に、三味線との共通点を聞くこともできるのです。社会の変化によって、目にみえる部分、つまりは衣装や楽器の形態が表面的に変化していても、歌い方や音の出し方など、本質にあるものが変わらなければ伝統は連続していると考えられるのです。

日本の伝統音楽は決して過去だけのものではなく、常に連続して生まれているものであると言えます。そして日本の楽器や声に対する様々な試みの共存の中から、新たな伝統<日本的なもの>が再び生まれてくることでしょう。歴史を俯瞰すると、そのことがよく見えてくるように思います。

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