手がかりは偶然出土した楽器

日本の音楽を知る上で、文献や楽譜などの記録が出現する以前の大きな手がかりは、偶然に出土した埴輪や銅鐸などの物になります。

有史以前の古い時代から今日までの日本音楽史の連続性は希薄であり、一世紀単位の空白を埋めるのは、たまたま出土した出土品が僅かな対象になっています。

音楽考古学の分野では歴史的変遷により、徐々に発掘される出土品が歴史を物語る手がかりとなっていますが、未だ有史以前が明らかになるまでには至っていません。

中国の三国時代の史料の一部である3世紀の『魏志』(倭人伝)には、邪馬台国の葬儀に関する歌舞に言及した箇所があります。

また文献として成立しているものではありませんが、『古事記』『日本書紀』『風土記』などに天の岩戸伝説や、仲哀天皇が琴を弾奏し神宮皇后が戦勝を告げたと言う神話的古事を含む音楽記事が垣間見られます。

弥生時代や古墳時代までについては、祭祀などで楽器として使用されたと考えられている銅鐸や、石笛・土笛・板状の弦楽器などの出土楽器、また埴輪などの副葬品や壁画などが当時の音楽の様子を物語る史料となっています。

さらに日本やその周辺文化圏に存在する、歌垣(男女の歌かけ遊び)などの古い習俗も重要な要素になっています。

文献として残されている日本史の以前では、大陸との文化的交流は確認されていますが、音楽の分野では純粋な日本固有の民族的歌舞を主として行っていたとされ、活発的な音楽上の接触はアジア諸国に求めるには至っていないと考えられています。

祭祀の要素の濃い国風歌舞(上代歌舞)などは、平安時代に今日の広義の雅楽として伝承されているものへと変化しましたが、日本音楽史の幕開けに極めて近い音楽の内容を伝えています。

伴奏に使用されている和琴は、登呂などの弥生時代の遺跡から出土した琴の面影を残しています。

外来文化の流入時代

古墳時代の4世紀に入り、まずは朝鮮半島の外来文化に触れ、その後さらにアジアの国々との文化的接触の頻度が高まっていきました。

『日本書紀』などの正史では、5世紀の半ばに新羅(しらぎ)の楽人が允恭天皇の葬儀に楽を献じたことが記され、6世紀半ばには百済(くだら)の楽人の交代要員が来日したことを記されています。

7世紀初頭の推古朝になると文化交流の輪はさらに広がり、中国の江南地方の芸能である伎楽(ぎがく)を、朝鮮半島の百済の教師が日本の少年へと伝えています。

聖徳太子の推奨もあったとされ、仏教公布手段として、外来の仮面劇である伎楽は、百済から渡来した味摩之(みまし)という人物によって、大和の桜井を最初の養成所として日本に定着化させたといえます。

遣唐使の派遣が常習化すると朝鮮半島経由の文物伝来により、中国本土とのコンタクトに焦点が移り、音楽や舞踊などの芸能も唐のしきたりに沿う傾向が強まります。

また、唐は中央アジアの芸能(西域楽)やインドの芸能(天竺楽)など周辺諸国の音楽を胡楽と称して活発に採用していたので、その影響を受けた平安時代(奈良)の日本の音楽も汎アジアの因子が強くあります。

日本の思想文化が仏教伝来(約6世紀中頃)によって、外来文化に溶け込んだわけではなく、皇室祖先神や古来の神々への祭りは、従来のしきたりを保全していたといえます。

また公文書の漢文化が進行し、漢詩が崇められる中、和歌は生活の一般教養として老若を問わず広く興じていたとされます。『万葉集』の和歌の例では、旋律の手がかりこそ少ないですが、文学寄りの書き留めて黙読するというより、音読して歌われる文字通りの歌であったことが推測されます。

平安初期に楽譜として成立した『琴歌譜(きんかふ)』は、古事記・日本書紀時代の歌の旋律と、伴奏の和琴の奏法の糸口が含まれている内容で、この『琴歌譜』の解読は様々な見解がありますが未解明の部分も多くあります。

琴歌譜

明治初期の文明開化にも見立てられる、古代前期における汎アジア文化時代の潮流は、発展大陸の文化を取り入れ、日本古来の精神と渡来した技能を併せて尊重する傾向が見受けられます。

音楽や舞踊においての古墳時代末期から奈良時代(飛鳥)は、突出した外来文化の導入時といえ、コンタクトで得た内容は、貪欲に吸収する気概で向き合っていたことが垣間見られます。

仏教伝来から2世紀を経た8世紀初頭、唐の長安の都を参考とする平城京が完成します。音楽史の上での奈良時代の出来事は、701年の大宝令による雅楽寮の創設と、752年の東大寺大仏開眼供養が重要となります。

汎アジア音楽が流入する時代の代表的な出来事であり、導入時の象徴的な事項として示されています。国家レベルで内外の楽舞を導入・継承するための制度と、国力の大半が注ぎ込まれたといわれる大仏の完成を祝う大法要があります。

雅楽寮の創設

教坊という中国の宮廷に設立された芸能教習制度を参考とした雅楽寮(ががくりょう)は、701年の大宝令により設けられた文化庁の役所のような行政機関であり、国立の芸能学校としての役割を備えています。

長官を頭(かみ)とする組織内容は、教官が指導の役目を行い、事務官が正規の雅楽と雑楽を担当し、国風歌舞にあたる歌・舞などが専攻実技の科目に値し、外来系の内容には唐楽高麗楽百済楽新羅楽伎楽が設けられます。伎楽は仏教と共に導入された仮面を用いる音楽劇です。

『令義解(りょうのぎげ)』には、設立当初の学生定員(60名)と教授定員(12名)が明記されており、高麗(高句麗)・百済・新羅の三国の師各4名と学生各20名で定員の合計になっています。

9世紀初頭に国風歌舞が大歌所(おおうたどころ)に移管され、教習科目の内容や定員は、林邑楽(りんゆうがく)や度羅楽(とらがく)などの科目が加わるなど再三の大改訂をしたとみられます。

現行の左方唐楽と右方高麗楽の二分類は、平安時代に入り形成されることになります。林邑楽は現代のベトナム・ラオス辺りの楽舞とされ、度羅楽は現代のタイ辺りとされていますが、正確には不明で一時的なものでした。

朝鮮半島三国それぞれの楽舞の特性を感じられない程、大きく日本化したものが現行の高麗楽で、周辺の楽舞である渤海楽(ぼっかいがく)を組み込んでいます。

左方唐楽とのバランスがよい右方高麗楽を新しく形成したことが推測されます。高麗楽は雅楽寮時代の「高麗楽」と現行の「高麗楽」では内容は異なります。渤海楽は現代の中国東北部のツングース族の国家楽舞のことです。

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