能楽の上演と能面の演技

能のレパートリーは、初番目物(脇能物)、二番目物(修羅物)、三番目物(鬘物)、四番目物(雑能物)、五番目物(切能物)などと主題やシテの演じる役柄に注目して様々に分類する発想があります。
江戸時代の番組編成から派生した考え方ですが、神が颯爽と祝福の舞を舞う曲が多い脇能物では、「スラスラとよみなく演じる」など、そのジャンルに共通の美意識に基づいて演技や演出を練ったり、プログラム立ての基準にするなど、ここには単なる分類以上の意味が込められていると言えます。

能楽の上演

能の現行曲は約250曲であります。現在の能楽の正式な上演スタイルは《翁》と能5曲、その間に狂言を演じる翁付五番立ですが、今日ではこの五番立の公演が催されるのは稀であります。

狂言1曲に能1曲、あるいは能数曲に狂言1曲という2時間程度から半日で終了する催しが多くなってきています。能の上演は1曲に1~2時間程度かかりますが、その中の見どころ、聴きどころだけを披露する略式の演じ方が発達しています。

声楽部分である謡だけを楽しむ傾向は、室町後期に既に見られますが、例えば短い舞の見どころを謡のみで舞う仕舞、主に舞事を中心に舞と囃子と謡とを演じ聴かせる舞囃子、謡を披露する素謡と言ったような略式の上演形態が様々あります。

この場合、能面・能装束は省略され、出演者は皆、紋付袴(時には裃を着装することもある)で出演し、演じられる箇所も細かく規定されています。このように略式上演のための様式が整っている点も特徴的であります。

能面とその演技

歌舞劇てある能は、 同時に仮面劇である点に大きな特徴があります。現在、能面の種類は数え方によって100を越えるほどあります。

世阿弥は能面に関する演技論をあまり残してはいないですが、観阿弥が座を結成するに当たって伊賀で面を求めた記事など、当時から猿楽にとって面が重要な存在であったことは明白な事実であると言えます。

歴史的には室町後期に能面の種類が急速に増え、室町末期にはほぼ基本の形が出揃ったとみられます。江戸時代に入ると本面などを忠実に模倣する時期に入り、ここにも能楽の固定化の現象が伺えます。

能面を使う第一の目的は変身のためであります。女性の役の面が特に発達しているのは、役者が男性であることを建前とする意識の一つの現れであると思われますが、そのほか神、仙人、花の精など超現実的な存在や亡霊などこの世の者ではない役柄にも面を使います。

また、能面には単なる道具以上の意味を込められます。翁面がご神体の神社があるように、能にとっての面とは信仰の対象にも似て、役者の面に対する神聖な気持ちを投影し、当日の演出を司る絶対的な存在でもあります。

能面はそれを付ける役者の視界を遮り、極度に不自由な条件の下、ゆっくりとしたテンポの演技でスピード感を出すなど、面を使いこなす技術に基づく高度な表現力が要求されます。

腰の重心を低く取り、腕を張ったカマエという基本姿勢と、ハコビという床を削るように力を入れたスリ足の運歩法は、能面を使うことでより洗練されたと思われます。

基本的に素顔で演じる狂言では、能のように面の技術が必要とされることは少ないです。コトバをどう伝達するかという言わばセリフ術が演技の根幹を成します。

小舞などでカマエとハコビ、あるいは舞踊的な所作を徹底的に訓練した身体と、小舞謡などで鍛えたリズムの流れを重視する発声法など、世阿弥が説く舞歌二曲の思想が、狂言の根底にも流れているという証しが挙げられます。

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