コンサート・ホールの誕生

かつての音楽の演奏会は社交の場の喧噪の中で開かれていましたが、
時代の変遷と共に聴衆の音楽への関心が高まり、コンサート・ホールが誕生しました。

教会音楽からコンサート・ホールの誕生まで

5世紀から14世紀まで約1000年にも及ぶ中世と呼ばれるこの時期の音楽は、キリスト教と深く結びついています。音楽の最も古い資料は、9~10世紀頃にネウマ譜で書かれたグレゴリオ聖歌です。

中世の文化そのものを考える上でも、キリスト教はそのバックボーンとして絶対的な位置を占めており、中世の音楽の資料に関しても多くが教会と結びついています。

中世に建築された巨大な教会は、キリスト教の地位を誇示するものであり、キリスト教においてはその初期段階から音楽が儀式の場で重要な役割を果たしており、グレゴリア聖歌などの歌が残響時間の長い空間で歌われていました。

14世紀以降にはオルガンも用いられるようになり、建物と一体となって迫力の響きを生み出すパイプオルガンは、教会音楽を印象付ける存在となっていました。

ドームと石で造られた教会建築の巨大な音響(反響と残響)は、対位法及び和声法発展の起源となる複旋音楽への発展に大きく貢献し、ドームは集約された第二次音源(意図的反響音)を生み出し、石は音を反射し大きな融合音(豊かな残響音)を生み出しました。

ハギア・ソフィア<トルコ:イスタンブール>

15世紀から16世紀にかけてのルネサンスにおける音楽は、教会や宮廷で演奏される音楽と民衆が演奏する音楽でのスタイルの違いがあり、教会や宮廷では柔らかい音色の楽器での演奏が好まれ、残響時間の長い環境で演奏されていました。

また美しい協和音の響きが好まれ、協和音程に対する考え方にしても、数理を第一のより所に協和音程を規定していた中世に対し、ルネサンスの捉え方では理性ではなく耳による判断の占める位置が大きくなっています。

教会や宮廷以外の民衆が演奏する音楽では、金管楽器やバグパイプのような刺激的な音色の楽器が好まれ、響きの少ない屋外で演奏されていました。

16世紀末頃から1750年頃までのバロック時代になると、ルネサンス様式と同様にバロック様式はイタリアに起こり、その後ヨーロッパの美術、彫刻、演劇、文学、音楽などすべての芸術や文化に浸透していきました。

バロック様式の建築も進み数多く建てられましたが、木材も多く利用されるようになったため、教会内の残響時間はかつてほどの長さではなくなりました。

建物の大きさの規模も縮小し、壁掛けや敷物に覆われることによって残響時間は短くなり、演奏音がクリアに聞こえるようになったため、楽器独自の音色を強調するような演奏が好まれるようになりました。

18世紀後半の古典派の時代になると、多くの人を対象とした演奏会が開かれるようになりましたが、ウィーン古典派と呼ばれるウィーンでは、パリやロンドンでのような聴衆の成立は遅く、古典派の時代の宮廷はイタリア・オペラやジングシュピールを好んでいました。

作曲家が盛んに作曲した器楽曲の作品は、貴族たちが保護して演奏会で演奏されました。ただし、この頃の演奏会は貴族階級の内輪の集まりで、コンサートという名目のものではなく、娯楽や社交の場で演奏を聴くという音楽聴取でした。

19世紀のロマン派の時代に入ると、音楽家と聴衆の関係という面で大きな変化を認めることができます。18世紀以前においては、ほとんどの音楽家は王室や貴族、教会などの保護下におかれていましたが、18世紀後期にブルジョアジーが社会の富と実権を握ると、保護制度は衰退し音楽家の多くは、コンサートなどに集まってくる不特定多数の聴衆を相手に活動するようになります。

このような社会状況のなかで、作曲家が自らの存在意義を社会に認めさせ収入を得るためには、大衆に強くアピールする独創性を持たなければならなくなったため、19世紀の音楽は強烈な個性の音楽時代となりました。

演奏の分野では、極めて高度な技能を身に付けた名人芸的演奏家(ヴィルトゥオーソ)が、多くの聴衆から絶大な人気を集めました。ヴィルトゥオーソがヨーロッパ中でもてはやされるという現象の発端になったのは、パガニーニであり、パガニーニはリスト、シューマン、ショパンをはじめとする19世紀の多くの作曲家に大きな影響を与えました。

ニコロ・パガニーニ

19世紀中頃になると、聴衆は演奏よりも作品そのものを堪能するためにコンサートへ足を運ぶようになり、過去の作曲家による古典的作品をじっくりと堪能するという形式で、現代でのクラシック音楽のコンサートと同様の形式が確立されました。

聴衆の音楽への関心や音に対しての細部へのこだわりが、コンサートを聴く空間レベルの発展を促進し、外部の音を完全に遮断して楽曲の音のみが響く音響空間が求められるようになっていきました。

建設費用にも巨額の資金が投じられるようになり、シューボックス型と呼ばれる直方体のコンサート・ホールが作られるようになります。

このような経緯を経て、現代に至る音響空間のコンサート・ホールが誕生したのです。

コンサート・ホールの発展

シューボックス型と呼ばれる直方体のコンサート・ホールは、横方向の反射音を多くするための形状で、名称からもわかるように靴箱のような直方体のホールです。

この直方体のホールでは、広がり感を得るための側方からの反射音を十分に利用することができるので、音楽専用ホールとしては理想的な形状とされています。

シューボックス型コンサート・ホールの代表的なホールは、ウィーン・フィルハーモニーが毎年ニュー・イヤー・コンサートを行うことで知られるウィーン楽友教会大ホールで、このホールは世界一美しい響きが得られるホールとして最高の評価を得ています。

ウィーン楽友協会大ホール

シューボックス型はその形状の特性により収容人数に限りがあるため、多くの聴衆を収容できるタイプのホールではありません。オーケストラのような大規模な演奏で採算面などを考慮する場合には、多くの聴衆を収容する必要があります。

収容人数の拡大化且つ十分な側方の反射音を確保したホールでは、ヴィンヤード型(ブドウ畑型)といわれる発展したコンサート・ホールの形状があります。

ヴィンヤード型ホールの形状は、ステージを取り囲むように客席が配置され、客席を区画的に分割し取り囲むように小さな壁が設けられていますので、その区画壁の横方向からの反射音によって音響空間を作り上げています。

ドイツではベルリン・フィルハーモニー、日本ではサントリーホール、アメリカではウォルト・ディズニー・コンサートホールがあります。

ウォルト・ディズニー・コンサートホール

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