設計図の楽譜 【音楽の勉強・基礎知識/音楽用語・歴史】
楽譜上に表示されている音楽の3要素の情報は、音楽のエッセンスを詰め込んだ設計図。
音符と休符の組み合わせは「メロディ」「ハーモニー」「リズム」を表現します。
楽典に基づく設計図の楽譜
楽譜の縦軸はピッチの上昇下降を示す軸で、ピッチを半音単位で表記することができます。横軸はメロディが展開する時間軸で左から右へ進行します。
音楽の3要素の表現を要素別にみた場合、メロディはピッチの変化で表現され、ハーモニーは縦方向のピッチの重なりを表現し、リズムは音符と休符のパターンで表現されます。
楽譜上のピッチの違いは五線譜の上下により示されます。五線や加線の線上や間に音符が位置することによって、絶対的なピッチ(音高)を定めています。
楽譜上で音符の左に♯(シャープ)の臨時記号が付くと半音上昇し、♭(フラット)の臨時記号が付くと半音下降することを示します。♯または♭でピッチが変化した音を元に戻すには、(ナチュラル)という記号を付けます。
五線譜に収まらない高い音や低い音を表現する場合には、加線を用います。
五線の左端にはト音記号、ヘ音記号、ハ音記号という音部記号のいずれかが記譜され、これによって五線上の音の絶対位置を定めています。一般的に多く用いられるのはト音記号とヘ音記号の楽譜ですが、利用する楽器の音域に従ってハ音記号も用いられます。
さらに楽譜には楽曲のリズムを表現する拍子記号が記譜されており、のように分数の形で示され、分母が「拍を表す音符の単位」、分子が「拍の数」を表し何拍子かを示しています。
ピアノなどでは一人で高音部(ト音記号)と低音部(ヘ音記号)を担当するため、右手(高音部)と左手(低音部)のパートを別々に示した二段の楽譜で記譜されています。このような楽譜を大譜表といいます。
オーケストラでは、多くの楽器の各パートの楽譜を縦に配列し記譜されています。このような楽譜をスコア(総譜)といい、指揮者はこの総譜を見て演奏全体を見渡します。
音符は演奏音のピッチと長さを定義し、ピッチは五線上での上下方向の位置で表現します。
音の長さは、全音符、2分音符、4分音符、8分音符、16分音符・・・といったように音符の種類で区別され、全音符を最長として順に二分割ずつされていきます。各音符に付点が付けられると、音符の長さは元の音符の1.5倍の長さになります。
休符も音符と同様に、全休符、2分休符、4分休符、8分休符、16分休符・・・といったように休符の種類で区別され、順に二分割されていくことや、付点を付けると長さが1.5倍になることも音符と同様です。全休符は長さに関係なく小節を丸々休む場合に記譜されます。
このように、楽譜上では様々な音楽の決まり事があり、音楽を作り出したり演奏したりするための規則を楽典といいます。楽譜は楽典に従って記す必要があるので、楽典は「楽譜の文法」でもあります。
音部記号のピッチと拍子記号
大譜表と総譜
音符と休符の種類
全音符 |
---|
外国語表記 |
〔英:whole note〕 |
解説 |
「4分の4拍子の1小節分に相当する長さを持つ音符」 4拍分の長さを表し符尾のない白玉を該当する拍に記しますが、小節内に全音符のみを置く場合、小節の中央に記すこともあります。
◇全音符の長さ
|
全休符 |
外国語表記 |
〔英:whole rest〕 |
解説 |
「1小節全部を休む休符」 4分の4拍子に限らず1小節全部を休むという意味で用います。第4線からぶら下がるように黒い長方形を記しますが、複数の声部が混在する場合はこの限りではありません。
◇全休符の位置
|
2分音符 |
外国語表記 |
〔英:half note〕 |
解説 |
「全音符の半分(2分の1)の長さを表す音符」 白玉に上向きや下向きの符尾が付きます。
◇2分音符の符尾の向き
|
2分休符 |
外国語表記 |
〔英:half rest〕 |
解説 |
「全音符の半分(2分の1)の長さを表す休符」 黒い長方形を第3線上に記すのが通常の位置ですが、複数の声部が混在する場合はこの限りではありません。
◇2分休符の位置
|
4分音符 |
外国語表記 |
〔英:quarter note〕 |
解説 |
「全音符の4分の1の長さを表す音符」 黒玉に上向きや下向きの符尾が付きます。
◇4分音符の符尾の向き
|
4分休符 |
外国語表記 |
〔英:quarter rest〕 |
解説 |
「全音符の4分の1の長さを表す休符」 第2間から第4間の間に記すのが通常の位置ですが、複数の声部が混在する場合はこの限りではありません。
◇4分休符の位置
|
8分音符 |
外国語表記 |
〔英:eighth note〕 |
解説 |
「全音符の8分の1の長さを表す音符」 4分音符の符尾の右側にハタが1つ付きます。2つ以上の8分音符が続く場合は、ハタではなく連桁という「桁」でつないで記すのが一般的です。
◇8分音符の長さ比較
◇8分音符の符尾の向き
|
8分休符 |
外国語表記 |
〔英:eighth rest〕 |
解説 |
「全音符の4分の1の長さを表す休符」 第2間から第3間の間に記すのが通常の位置ですが、複数の声部が混在する場合はこの限りではありません。
◇8分休符の位置
|
16分音符 |
外国語表記 |
〔英:sixteenth note〕 |
解説 |
「全音符の16分の1の長さを表す音符」 4分音符の符尾の右側にハタが2つ付きます。2つ以上の16分音符が続く場合は、2本の連桁でつないで記すのが一般的です。
◇16分音符の長さ比較
◇連桁のつなぎ方
|
16分休符 |
外国語表記 |
〔英:sixteenth rest〕 |
解説 |
「全音符の8分の1の長さを表す休符」 第1間から第3間の間に記すのが通常の位置ですが、複数の声部が混在する場合はこの限りではありません。
◇16分休符の位置
|
32分音符 |
外国語表記 |
〔英:thirty-second note〕 |
解説 |
「全音符の32分の1の長さを表す音符」 4分音符の符尾の右側にハタが3つ付きます。2つ以上の32分音符が続く場合は、3本の連桁でつないで記すのが一般的です。
◇32分音符の長さ比較
|
32分休符 |
外国語表記 |
〔英:thirty-second rest〕 |
解説 |
「全音符の16分の1の長さを表す休符」 第1間から第4間の間に記すのが通常の位置ですが、複数の声部が混在する場合は、この限りではありません。
◇32分休符の位置
|
付点音符 |
外国語表記 |
〔英:dotted note〕 |
解説 |
「もとの音価の1.5倍の長さを表す音符」 付点が付いた音符の音価の半分の長さが足され、もとの音価の1.5倍の長さを表すことになります。付点は音符の符頭の右側に記します。
◇付点音符の長さ
◇付点音符を連桁でつなぐ場合
◇付点の位置
|
付点休符 |
外国語表記 |
〔英:dotted rest〕 |
解説 |
「もとの音価の1.5倍の長さを表す休符」 付点が付いた休符の音価の半分の長さが足され、もとの音価の1.5倍の長さを表すことになります。付点は休符の右側に記します。
◇付点休符の長さ
|
複付点音符 |
外国語表記 |
〔英:double-dotted note〕 |
解説 |
「もとの音価の1.75倍の長さを表す音符」 付点が2つ付いた音符を複付点音符といいます。1つ目の付点で足された音価のさらに半分の音価が足され、もとの音価の1.75倍の音価になります。
◇複付点音符の長さ |
複付点休符 |
外国語表記 |
〔英:double-dotted rest〕 |
解説 |
「もとの音価の1.75倍の長さを表す休符」 付点が2つ付いた休符を複付点休符といいます。1つ目の付点で足された音価のさらに半分の音価が足され、もとの音価の1.75倍の音価になります。
◇複付点休符の長さ
|
ニ全音符 |
|
外国語表記 |
〔英:double-whole note〕 |
解説 |
「全音符の倍の長さを表す音符」 あまり一般的ではありませんが、2分の4拍子など特殊な拍子の場合に用いられます。小節線を引かない宗教音楽や、現代音楽などにも多く用いられます。 |
ニ全休符 |
外国語表記 |
〔英:double-whole rest〕 |
解説 |
「全休符の倍の長さを表す休符」 ニ全音符と同様にあまり一般的ではありませんが、2分の4拍子など特殊な拍子の場合に用いられます。小節線を引かない宗教音楽や現代音楽などにも多く用いられます。 |
楽譜に表現できない要素
楽譜上で示される西洋音楽の情報は、かなり細かく音楽の内容を定めた密度の濃い設計図になっています。しかし、同じ設計図でも演奏の表現は様々で、同じ楽曲で同じ演奏が出来上がるとは限りません。楽譜の解釈は演奏者の見解により様々で、必ずしも楽譜通りに演奏されるとは限らないのです。
ピッチが自由にコントロールできる楽器では、導音から主音へ進行する際、導音のピッチが主音に若干近づく性質があります。リズムに関しても、ある一定のリズムを楽譜通りに忠実に刻むという訳ではありません。
3拍子系ワルツのウィンナワルツでは、3拍子の3つの拍が均等な長さではなく、2拍目を若干早めにずらすように演奏され、それによって独特の流動感を生んでいます。また、合奏の場合の全体のバランスなどは楽譜上では細かく指示されていないので、演奏家や指揮者の裁量に任されることになります。
レコーディングの場合には演奏家の意向だけではなく、録音エンジニアやプロデューサーが音楽制作に携わり、各楽器の音量調整や楽器間の音色のバランスなどが調整されることになります。音楽にはこのように、楽譜に表現しきれない要素が多分にあるので、演奏家、指揮者、制作スタッフが楽譜の設計図のプラスαとして豊かな音楽表現を加えるのです。