音楽は歌うことから始まり、歌は人間の声のみが奏でられる音楽芸術です。
他の楽器では奏でることができない言葉を伴う歌は、詩と音楽が結びついて誕生したのです。
歌うことから始まる音楽
音楽と言語には深い関係があり、音楽学者のクルト・ザックスは「音楽は歌うことから始まる」と主張しています。音楽と言葉が結びついた歌は、両方の特徴を兼ね備えています。
音楽本来の性質も多くの面で言語と共通していて、音楽も言語もコミュニケーションの手段であり、ある種の規則に従って時間的に展開しています。音楽は楽典の規則に従って展開され、言語では文法が規則となって展開しています。
言語の場合では、考えを正しく伝えることが重要な目的であるのに対し、音楽の場合では、情緒を高め美しく表現することに重きを置いています。
詩と音楽が結びついて歌が誕生
詩も音楽と同様に「情緒を高め美しく表現する」ことに重きを置いたものであるので、詩と音楽が結びついて歌となるのは極めて自然で必然的な展開といえます。
詩にもリズムがあり、抑揚があるため強弱やアクセントをつけて朗読されますが、この詩から生まれる自然なリズムやアクセントは、そのまま音楽のリズムやメロディになり、音楽の強弱表現と融合することによって「歌」が生まれるのです。
歌詞とメロディの記憶では、メロディのみを憶える記憶よりも、メロディに歌詞をつけて憶える方が記憶することができるといわれています。反対に歌詞を憶える課題においても、歌詞にメロディをつけて憶える方が記憶できるとされています。メロディと歌詞が不可分に結びついて歌が記憶を促進するのです。
ベルカント歌唱法の秘密
ベルカント唱法をマスターした強靭な声帯を持つクラシックの歌手は、マイクロホンも使わずにフル・オーケストラと共演して朗々とその歌声を響かせることができます。
フル・オーケストラに負けない大音量の声を生み出している歌声には秘密があり、ベルカント唱法で歌われた母音にはシンガーズ・ホルマントと呼ばれる共鳴特性があり、この共鳴特性によりフル・オーケストラに負けることなく歌声を聞かせることができるのです。
シンガーズ・ホルマントが形成される周波数帯域には、オーケストラの演奏音がそれほど大きなエネルギーを持っていない為、オーケストラがフルに音を出しても歌声は明瞭に聞き取れるのです。
シンガーズ・ホルマント
※ベルカント唱法での歌声と話し声のスペクトル比較