コード進行

【第2回】なぜカノン進行は心地よいのか?音楽理論で解き明かす黄金律の秘密

はじめに:心地よさの裏側にある「ルール」

第1回では、カノン進行が持つ不思議な魅力と、それが多くのヒット曲で使われている事実をご紹介しました。今回は、その「心地よさ」の正体を、少しだけ専門的な「音楽理論」の視点から解き明かしていきます。

「理論」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、ご安心ください。ここでは、カノン進行の美しさを支える巧妙な「ルール」を、表を交えながら分かりやすく解説します。この仕組みを知れば、あなたが音楽を聴く楽しみ、そして作曲するときの強力な武器になるはずです。

物語の登場人物たち:ダイアトニックコード

カノン進行を理解するための最初のステップは、「ダイアトニックコード」を知ることです。

ダイアトニックコードとは、ある音階(スケール)の音だけを使って作られる基本的なコード(和音)のグループのことです。家族のようなものだと考えてください。

最も分かりやすい「ハ長調(Cメジャースケール)」の “ドレミファソラシ” を使って作られるダイアトニックコードは、以下の7つです。

コード名 ローマ数字 機能(役割)
C (ドミソ) I トニック (T)
Dm (レファラ) ii サブドミナント (SD)
Em (ミソシ) iii トニック (T)
F (ファラド) IV サブドミナント (SD)
G (ソシレ) V ドミナント (D)
Am (ラドミ) vi トニック (T)
Bdim (シレファ) vii° ドミナント (D)

カノン進行 C→G→Am→Em→F→C→F→G は、太字にしたコード、つまりこの家族のメンバーだけで構成されていることが分かりますね。だからこそ、響きに統一感が生まれ、自然に聴こえるのです。

ローマ数字で表記すると、I → V → vi → iii → IV → I → IV → V となります。この表記法は、どんなキーにも応用できるため、作曲の世界では非常に重要です。

コードの役割分担:トニック・ドミナント・サブドミナント

ダイアトニックコードには、それぞれ「コード機能」という役割があります。物語におけるキャラクターの役割のようなものです。主に3つのグループに分けられます。

  1. トニック (T) – 「安定・安心」の家
    • 該当コード: I (C), iii (Em), vi (Am)
    • 役割: 物語の始まりと終わり。中心となる安定した響きで、聴く人に安心感を与えます。「おうちに帰ってきた」ような感覚です。
  2. サブドミナント (SD) – 「展開・彩り」の旅
    • 該当コード: IV (F), ii (Dm)
    • 役割: 物語に彩りや変化を与える役割。少しだけフワッとした浮遊感があり、トニックにもドミナントにも進める自由さがあります。「ちょっと寄り道してみよう」という感覚です。
  3. ドミナント (D) – 「緊張・期待」のクライマックス
    • 該当コード: V (G), vii° (Bdim)
    • 役割: 最も緊張感が高まるコード。次にトニックに進みたくてウズウズしている状態で、サビ前の盛り上がりなど、クライマックスを演出します。「早くおうちに帰りたい!」という強い欲求です。

この 安定(T) → 展開(SD) → 緊張(D) → 安定(T) という流れが、音楽における心地よいストーリーの基本パターンです。

カノン進行のストーリー展開を分析する

それでは、この3つの役割を使ってカノン進行 I→V→vi→iii→IV→I→IV→V のストーリーを分析してみましょう。

  • I (C) [T]: 物語の始まり。穏やかで安定した状態。
  • V (G) [D]: いきなり緊張感!「何かが始まるぞ」という強い期待感。
  • vi (Am) [T]: 一転して切ない安定へ。主人公の心情に寄り添うような響き。
  • iii (Em) [T]: さらに切なさを深める安定。vi(Am)の代理コードとしても機能。
  • IV (F) [SD]: 少し明るい展開へ。希望が見えてくるような場面転換。
  • I (C) [T]: いったんホーム(家)に戻り、小休止。安心感
  • IV (F) [SD]: 再びサビに向かって展開。盛り上がりの準備。
  • V (G) [D]: 最大の緊張!「さあ、サビへ行こう!」という強いエネルギー。
  • (→ 次の I へ解決)

このように、カノン進行は「安定」と「緊張」、「展開」を絶妙なバランスで配置することで、聴く人の心を飽きさせずに引き込む、非常に完成度の高いストーリーを持っているのです。

特に、ドミナント(V)からトニック(I)へ進む動き(ドミナント・モーション)は、音楽における最も強い解決感を生み出す動きであり、カノン進行の随所で効果的に使われています。

隠された美しさ:ルート音のなめらかな動き

もう一つの秘密は、コードの根音(ルート音)の動きにあります。

C(ド) → G(ソ) → A(ラ) → E(ミ) → F(ファ) → C(ド) → F(ファ) → G(ソ)

この音の動きをよく見ると、

  • C→G, A→E : 5度下進行(または4度上進行)という、音楽的に最も自然で力強い進行。
  • G→A : 隣の音へ進む順次進行
  • F→G : これも順次進行

このように、音楽的に非常にスムーズで美しいとされる音の動きが多用されています。これが、カノン進行のメロディーラインに滑らかさと力強さを与えているのです。

まとめ:理論が裏付ける普遍的な美しさ

今回は、カノン進行がなぜ心地よいのかを音楽理論の側面から解説しました。

  • ダイアトニックコードという家族の音で構成されているため、統一感がある。
  • **コード機能(T, SD, D)**を巧みに使い、感動的なストーリーを自動的に作り出す。
  • ルート音の動きが5度下進行など、音楽的に自然で美しい。

カノン進行は、ただのコードの羅列ではなく、音楽の普遍的な美の法則に則った、計算され尽くした芸術品なのです。この理論を知ることで、音楽をより深く味わうことができるでしょう。

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