音律の仕組み
演奏で美しいハーモニーを奏でるためには、それぞれの楽器の調律が均一である必要があります。
音律は振動数比率によって表わされるピッチの相対的な関係を、音響物理的に規定したものです。
音律
音の絶対的なピッチは、発音体の振動数によって決めることができますが、ピッチの相対的な関係は振動数の比率によって表わされますので、音階の構成音に対してどの周波数を当て込むのかを規定するのが音律です。
言い換えれば、オクターヴをどのような間隔に分割するのかというのが音律の仕組みです。美しいハーモニーを求めて発展してきた西洋音楽の歴史的変遷と共に、音律の原理も時代の状況に応じて変化してきました。
遥か昔の古代ギリシャ時代に遡っても、オクターヴが美しい音程であることは知られており、単純な振動により1:2の振動比がオクターヴを作ることや、2:3の振動が美しい響きであることも知られていました。
この2:3の音程を積み上げて、オクターヴ内に配列すると矛盾が起きてしまいますが、ピタゴラスはそれを承知の上で論理的に証明しました。
単純な旋律が主流の時代は、このピタゴラス音律が主流であり、ギリシャからヨーロッパへと広まりましたが、古くは日本の邦楽でも旋律が四七抜き音階でできているように、日本でもピタゴラス音律が用いられていました。
中世の時代は教会音楽の全盛期で、多声音楽(ポリフォニー)が発達しましたが、声部が複雑になるにつれてハーモニーが追求されるようになり、自然倍音によって構成された純正律が重視されるようになります。
純正律は同時に奏でられた場合は良い音程ですが、調によって全く音程が異なるため、音程が固定されている楽器には全くそぐわないものであり、ピタゴラス音律と同様に万能なものではありませんでした。
時代の変遷に伴い音楽は、和声の働きが重要な役割を持つようになり、様々な転調を要求する機能和声に対応するため、ピタゴラス音律や純正律ではない音律が求められるようになっていきました。
モーツァルトの古典派時代までは、ミーントーンと呼ばれる音律がよく使われており、ミーントーンは3度の音程が美しく響くように考えられた音律でしたが、こちらも最終的には調性に制限が大きい音律でした。
その後は、より転調が容易にできて全ての調性にバランスが取れている音律が求められるようになり、現われたのがヴェルクマイスターやキルンベルガーなどの調律法です。
これらの音律は、出来うる限り純正のままの響きを残しながら、転調した際にも音の不整合が少なくなるように考えられて作られた調律法でしたが、これらの調律法も転調や全ての調性にバランスに適した音律には至りませんでした。
このヴェルクマイスター調律法の第三調律法が、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」で用いられています。バッハの時代には、現代で用いられている平均律は使用されていませんでしたので、平均律は正しくはありません。
バッハが愛用した音律は、ヴェルクマイスターの第三調律法と呼ばれるものです。ヴェルクマイスターは、ミーントーンと比べても各調の差が少なく転調機能に優れていましたが、現代で用いられている平均律とはかけ離れた音律です。
16世紀後半になり平均律が登場しましたが、当時の平均律はオクターヴ以外は純正な響きを持たず、美しくないものの音律として大きな潮流にはなりませんでした。
19世紀に入り産業革命に伴い音楽の分野でも、現代のピアノに近い楽器が普及し始め、様々な要因により平均律が広がっていきます。
こうして19世紀後半以降の作曲家は、平均律を前提として楽曲を制作していくようになりました。
ハーモニーの基礎となるのは、2音間のピッチ間隔である音程であり、音程は同じ音なら完全1度、半音の音程は短2度、全音の音程は長2度と数えます。
半音3つで短3度、半音4つで長3度、半音5つで完全4度、半音6つで増4度・・・と続き、オクターヴは半音12個分の音程で完全8度となり、オクターヴの音程は2倍になる周波数で定まります。
音程は2音間の周波数比で定まりますが、オクターヴ以外は音律が異なると周波数比も異なっていきます。